歩くうちに一軒の居酒屋をみつけて暖簾をくぐつた。
白粉くさい年増女を相手にして酒をくむと、酔ひがただ専すら快適に溢れるばかりで、むやみに快よく、興趣つきるところを知りがたい有様で、年増女を相手にして溢れでる感慨を歌ふがやうに喋りつづけてゐたのであつたが、やがて嬌声に送られて眠つた夜道へ降りてみると爽やかな沁みるがやうな哀愁はなほ森々と深まりゆくばかりであつた。
ひつそりした山底の町を目当てなくぐる/\と彷徨うたのち、一軒の薄暗い宿屋を起して古風な汚い座敷へ通ると、部屋の片隅へただぼんやりと坐つてみても、寝床の上へ寝倒れてみてもはるかな帰滅に通じるやうなひろびろとした寂寥がたゞ沁々と四辺をつつみ、遠い彼方を流れてゐる自然の精気が心に通じてくるのであつた。