ひつそりした山底の町を目当てなくぐる/\と彷徨うたのち、一軒の薄暗い宿屋を起して古風な汚い座敷へ通ると、部屋の片隅へただぼんやりと坐つてみても、寝床の上へ寝倒れてみてもはるかな帰滅に通じるやうなひろびろとした寂寥がたゞ沁々と四辺をつつみ、遠い彼方を流れてゐる自然の精気が心に通じてくるのであつた。
翌朝目覚めた蒲原氏は、明るい太陽の光の下では、昨夜の縹渺と流れた心を殆んど朦朧としか思ひだすことができなかつた。
乗合に乗つてただ茫然と温泉へ帰ると、そこでは残された一行が宿屋ともども大騒ぎを演じてゐたが、自分のしでかした行動の結果に一片の反省も思ひ至らぬ面持で朦朧と舞ひ戻つた蒲原氏が、ポツポツ語りだすあらましの事情をきいて、張りつめた気が一時に弛んだ一同はゲタゲタと笑ひだすほかに仕方がなかつた。