右様の次第で、あの小説の中では一番怪しいのが桜枝町で、そのほかは大方の読者が思ふほど出鱈目でないことを(かう気取つて言ふほどの自慢にもならないが)納得あれば幸甚である。
僕の親しい友人でさへ、僕の小説といへば出鱈目の地名を書くものと思つてゐるらしく、僕に文芸通信の抗議を教へてくれた男は、桜枝町は実在する町名だつたかいと呆れてゐたが、これも少しひどすぎるのである。
かういふことを言つても人々は信用しない形跡があるが、僕はくだらないことに嘘を書くまいとして、実はあべこべに愚劣な苦労をすることが多いのだ。