実際は、感激したり力んだりしてみても、いざ実際に作品となれば、そんな魔術は薬九層倍ほどの御利益もありません。
薬師仏にぬかづいてあまたの物語をみせたまへと念じた乙女は、十三の年京にのぼり、思ひの通り数々の物語を読むうちに、いつとなく物読むことからも遠くなり、「辛うじて思ひよることは、いみじくやんごとなきかたちありさま、物語にある光源氏などのやうにおはせむ人を、年に一度にても通はし奉りて、浮船の女君のやうに、山里にかくし居ゑられて、花、紅葉、月、雪ながめて、いと心ぼそげにて、めでたからむ御文などを、時々待ち見などこそせめとばかり思ひつづけ」るやうな年頃になります。
このひと後に信濃守某に嫁し、その一生を終るのですが、「年月は過ぎかはり行けど、夢のやうなりしほどを思ひいづれば、心地もまどひ、目もかきくらすやうなれば、そのほどのことは、まださだかにもおぼえず。