木暮村へ到着忽々、まづ下婢の美貌にたぢろいだのが皮切りで、その後村を歩いてゐると、藁屋根の下に釣瓶の水を汲む娘や、柴を負ふて山を降る女達、また往還の日当たりに乾瓢をほす女などに、出会ひがしらに思はず振向きかけるやうな美人を見出すことが多い。
勿論かうした山中のことで、美人を予期してゐないのが過大な驚異を与へるわけだが、脚絆に手甲のいでたちで、夕靄の山陰からひよいと眼前へ現れてくる女達の身の軽さが、牝豹の快い弾力を彷彿させ、曾て都会の街頭では覚えたことがないやうな新鮮な聯想を与へたりする。
さういふ中でも特に念頭を去らないのが、あの下婢の異国風な、古の希臘の女を思はせる顔なのである。