彼はあらゆる魚の習性に就いて該博なる智識を有してゐるが、目下彼の研究題目となつてゐるのは、あらゆる魚釣に可能な唯一本の針の発明といふことである。
勿論鯨と目高を同一の針で釣ることができるかと皮肉な問ひをなす者は言を弄ぶこと容易にして事を為すこと至難なる所以を知らざる愚者にすぎない。
彼はこの発明のために、釣針よりも、先づ多くの魚の習性に就いて更に研究をすすめる必要があり、多くの魚を飼育する必要にせまられてゐるが、それが全く不可能であるため、自暴自棄におちいり、「魚よ、なぜ水中に棲むか」といふ叫びをあげて泣き叫ぶ発作に襲はれることがある。