こんちはア」とかう言ひながら、四十五六の年配で鼻ひげなども生やしたくせに、御用聞と同じやうな笑ひ方して、左様、丁度その日の午頃であつたが、なにがし商店の店先へ顔をだした男がある。
深川区なにがし町なにがし番地オペラ劇場主人なんとかの草石といふ雅号を刷つた大型の名刺を所持に及んでゐる、何のためだか知らないが、かうやつて時々なにがし商店の店先へ顔をだすのである。
それから勝手に店内へ上りこんで、自分の小屋へしよつちうかかる浪花節の口調でもつて時局や外交問題などを一席弁じ、いつのまにやら又消えてゐる。