愈勝手の分らないことばかりである。
第一この御人の顔付はげつそり痩せ細つてゐて、なるほど栄養の補給が余程足りないことなども、充分納得できるけれども、ひとつには高邁深遠な精神が無駄な肉をそぎとつたやうな痩せ方で、何かかう西洋のお偉い人の、エマヌエル・カントとかエドガア・アラン・ポオとかいふ、さういつた哲人詩人の味のある華車で聡明で刃物のやうな顔付である。
深川オペラ劇場主人は人の顔付を判断して咄嗟にこつちの言葉使をきめてしまふ男であつたが、この時ばかりはてんで訳が分らないので、ただもう盲めつぽうに、いと丁重にお辞儀してゐる。