僕はそのとき病気であつたし、病気でなくとも不良少女の行方など探す気持にはなれなかつたので、この食堂の二階座敷が碁会所になつてをり、そこへ来る常連に特高の刑事で俳句をつくるおとなしい人がゐたから、その人に頼んだらよからうと言つた。
けれども親父は僕の部屋をまるで自分の知らない家のやうなびつくり眼で見廻したり、窓から比叡の山々を生れて始めてのやうに眺めたり、先生、あの山になんや赤い物が見えまんなア、なんやらうな、ほんまに……などゝ言つて、僕がウンと言ふまではいつかな動かない。
仕方なしに娘の手紙一山、まつたく一山、とり出させて、手掛りを探した。