然し、親翁が死んだら……多分、主婦自らが最もそれを希つてゐたに相違ないが、然しながら実際親爺が死んだら……主婦とても全く自信はないのであらう。
ふとつた石屋も香具師の親分も老後を托すに足るだけの誠意でないことは自明であるし、第一主婦は、すべての大人といふものが世の辛酸表裏を知りつくしてゐるために、大人達と老人達に本能的な嫌悪を懐いてゐた。
さうして、弁当の得意先であるところの鉄道の独身者の若い従業員に親切にし、娘の婿にと心掛けてゐるのであつたが、実際は、それが娘のためではなく主婦自らの最大の慰安であつた。