ところが辻斬の先生よほどの達人とみえて、男の方はチャリンといふ鍔音をきいたが、首を切られた感じがないし、首も元通り身体の上に乗つかつてゐる。
ザマ見やがれ、サムライなんて口程もない奴だ、と男は道を急ぐうち行手が火事になり、混雑の中へくると首が切られてゐるのに気がついて、オットぶつからないでくれ、首が落ちるから、と首を押へて歩いてゐたが、我慢出来なくなり、首を両手で提灯のやうに持ち上げて、オーイ、危い、ドイタ/\と走りだした、といふ話がある。
どちらの話も「武士」といふ生活がなければ生れる筈のない話で、手練の達人に会ふと首をチョン切られても、切られた気がしないとか元通り首が乗つかつて息をしたり喋つてゐるなどゝいふ痛快な思ひつきが、僕は無類の骨董を見るやうに大好きだ。