鼻介の野郎は十一二から江戸へ奉公にでて、三十にもなって女房もつれずに故郷へまいもどった風来坊であるが、段九郎の配下の者でも身分は問わないというから、あの野郎が不都合だという理由にならない。
見どころのある人間だとは思われないが、困ったことには、コマメであるし、機転がきくし、手先の細工物にも妙を得ており、人が十日でやるようなことを一日で仕上げて済ましているようなズルイ奴だ。
田舎では、こういう奴をズルイ奴だといって、正しい人間の仲間には入れないけれども、オ君の花聟の条件に照し合せると、正しくてグズで間違いのない当り前の人間よりも、あの野郎の方に都合良く出来ている傾きがある。