ところがこの忍術使いは忍びの術には達していたが、九州の農民の方言も分らぬばかりでなく、切支丹の用語も知らず、その祭儀に処する身ぶりの心得もないから、たちまちバレて背後から石ツブテをぶつけられつつも忍術使いだけの貫禄を示して、ホウホウのていで逃げ戻ったという。
かくの如くに現実の忍術使いに九字を切ることは実在しないし、太閤記だの真田軍記だのと伝説的な忍術使いが現れて胸に真言九字の印をきりだしたのは後日のことで、どうも切支丹の十字の方が忍術の九字の印の原型だろうと私は思う。
そして要するに、今日の猿飛佐助の原型、あの胸に九字の印を切る様式の原型は、それを史実に探るとすれば、実は金鍔次兵衛に非ずや。