文学者は素人タンテイではないのだから、ただ文学者の職分として心理分析によって山口と成子の犯行を確認しうる理由をもったがゆえに、文学的に表明してみただけの話であって、素人タンテイたるの功を誇ることとは意味がちがう。
私は先ず山口の手記に、成子の個性がないこと、アベコベに男の個性がありすぎることを指摘し、成子がしばしばゴミをすてに裏へでたこと、深夜に男が来ていたこと、成子が旦那の売上げを数えるのを見ていたこと等、彼の観察が男女共犯物盗り説の一点にのみ集中していることを指摘した。
しかもこれらの目撃者は彼一人であって、他の誰も同じものを見ることができない底のものなのである。