私にはそういう経験はシバシバある。
家人を呼びたてておいて、家人が何御用ですか、と現われた時に、用向きがにわかに思い出せなくなっているというような瞬間もある。
山口さんが公衆電話の中で何かしているうちに意識を失った、というのや、婦人患者がメガネを紛失したようだとポケットかハンドバックかなんか探しているうちに意識がかすんだ、というのは、その発端に於ては、我々の日常において経験する平凡な健忘状態とほぼ(否、まったく)同様で、ただそれが長時間にわたってさめないこと、さめずに別人の生活をしていることの相違がある。