警察側も私と同一の犯人を推定して逮捕状をもとめたようですが、伊東市民の大半は教養もありおとなしそうなその息子が父母を殺す筈はないという人情的考察で彼を犯人にあらずと見ているようです。
この事件は犯人がいろいろと現場に偽装を施したにも拘らず、多くの状況がただ一人の容疑のみを深め、そのほかにも犯人があるかも知れんという想像の余地がほとんどないぐらい、実にこんなに夥しく重大な状況証拠が一人にだけ重なっているのは珍しいような事件でした。
ところが、そういう珍しいほど多くのシッカリした容疑事実にも目をそむけて、人情的見解や感傷につくという、理につくよりも情につきたいという、私はそういう俗情の動きが何となく言論無用という暴力団のように怖しく思われて、次第にたまらないような気持になって、その結果が思いきって親殺しを論断するという向う見ずな実行に至った理由の一ツでしたろう。