彼らの身になって考えてやれば、せっかくの米を途中で捨てて逃げたのも、ヒョッとすると自分らが犯人に疑われる心配があるということで、殺人に当って指紋を残さぬために手袋を用いるだけの要心を心得た犯人が指紋よりも手がかりになり易い自分の袋に米をつめたまま捨てて行くことは首尾一貫を欠いてダラシがなさすぎる、ちょッと理窟に合わぬ、変だ、と見ることもできましょう。
彼らは犯人ではないくせに、そう疑われる不安のために心が顛倒して、疑いの元になるのも気付かずに自分の袋につめたままの米をすてて逃げた。
疑われる不安の方だけ強くて、犯人でないことを立証する自信もないし、無実を主張する以外に具体的な論証法の心得もない。