ところが家康という人はにわかの大事に会うとテンドウして蒼ざめたり爪をかむけれども、その逆上コンランを押し鎮めて後には、周到細心、着実無比の策を施し、眼をはたらかせる深謀遠慮、沈着の智将なのである。
そして家康の一生には、その武将としての足跡には、三方ヶ原の敗戦このかた蒼ざめて茫然自失した跡などは見られないが、しかも事件突発の当初に於てはそれが五十すぎても変らない持ち前の性格で、側近の見た偽らぬ家康、彼の平凡な一面だったのである。
氏も素性もない他人の女房にかぎって妾にしたがるところは甚しく好色に見える家康だが、それは外道的、反家庭的のように見えて、彼の一生はそうでもない。