少しも落ちついていない。
だからこの世にいても、この汽車から降りても、この停車場から出ても、またこの宿の真中に立っても、云わば魂がいやいやながら、義理に働いてくれたようなもので、けっして本気の沙汰で、自分の仕事として引き受けた専門の職責とは心得られなかったくらい、鈍い意識の所有者であった。
そこで、ふらついている、気の遠くなっている、すべてに興味を失った、かなつぼ眼を開いて見ると、今までは汽車の箱に詰め込まれて、上下四方とも四角に仕切られていた限界が、はっと云う間に、一本筋の往還を沿うて、十丁ばかり飛んで行った。