このとき葛巻に助けられたので今歴々思いだしたが、まだ弁当仕出屋の二階に移らぬ前に、火薬庫の前の計理士の二階を借りていたことがあった。
僕が京都に住んだのは、一切友人を離れ、本当に孤独というものを底の底まで突きつめてやれ、という一時の気まぐれに発した移住であったが、計理士の二階で病気になった。
背中の手だけは辛じてとどくけれども絶対に見ることの出来ぬ場所に腫れ物ができ、構わずにおくと、一ヶ月目ぐらいにだしぬけに高熱がでて、目はくらみ、耳は唸り、苦痛のために身体をエビの如くに曲げてみても冷汗が流れ、自然のたうちまわって、まったく意識せずして唸り声を発してしまう。