父も長兄には特別心を労したらしいが、この長兄は私とは年齢も違い上京中で家にはおらなかったから、その父と子の関係もよく知らない。
ただ父の遺稿に、わが子(長男)を見て先考を思い不孝をわびるというような老後の詩があり、親父にそんな気持があったかね、これは詩の常套の世界にすぎないのだろうと冷やかしたくなるのだが、然し、父の伝記を読むと、長男にだけはひどく心を労していたことが諸家によって語られている。
父の莫逆の友だった市島春城翁、政治上の同輩だった町田忠治というような人の話に、長男のことを常に呉々も頼んでおり、又、長男のことを非常によく話題にして、長男にすすめられて西洋の絵を見るようになったとか、登山に趣味を持つようになったとか、そんなことまで得々と喋っているのであった。