気質的に苦手な人物が相手ではもう酔えなくて吐き下し、五度飲むうち四度は酔えず吐き下している有様だけれども、因果なことに、酒に酔わぬと人と話ができないという小心者、心は常に人を待ちその訪れに飢えていても、結んだ心をほぐして語るには酒の力をかりなければどうにもならぬ陰鬱症におちこんでいた。
だから客人来たる、それとばかりに酒屋へ女房を駈けつけさせる、朝の来客でも酒、深夜でも酒、どの酒屋も借金だらけ、遠路を遠しとせず駈け廻り、医者の門を叩く如くに酒屋の大戸を叩いて廻り、だから四隣の酒屋にふられてしまうと、新天地めざして夜逃げ、彼の人生の輸血路だから仕方がない。
彼は貴公子であった。