根柢に現実の根とまったく遊離した作品世界に遊びながら、その偽瞞に気づかぬどころか、現実のうわべだけを作中世界に似せ合わせることに成功することによって、彼は益々自作の熱愛読者となり、自作に酔っぱらい、わが現身の卑小俗悪を軽蔑黙殺することに成功した。
彼はもうイヤでも自分の作品に酔っぱらわなければ、この現身の息苦しさに堪え生きていられないのだ。
同業者や批評家はいまだに孤高の文学、異色の文学、きまり文句でお座なりの五、六行文芸時評の片すみへこれも稼ぎのためだからと筆まめにいい加減あてずっぽうに書いてくれるのが時々いたりするけれども、もう女房だけは騙すことができない。