ところがまだ大学生のことだから、一番ありふれた俗世の実相がわからない。
夫婦喧嘩は犬も食わないと云って、昔から当事者以外は引込んでいるべき性質のものだが、彼はすっかり女房の言うことをマに受けて、失踪帰りの女房について送ってきたとき、先生、変な女にひっかかるの言語道断などと一人前に口上をのべて先生を怒らせてしまったものだ。
そこで鬱憤もあるところへ、再び女房がワッと泣きこんできたから、大いに同情し、行くところがないから泊めて、と言うが、脛カジリの大学生では両親の手前も女は泊められない、そんなら一緒に旅館へ泊りに行きましょうと、元々その気があってのことで、手に手をとって失踪してしまった。