元々痴情の家出ならともかく、亭主と喧嘩して飛びだす、そういう場合は別で、自分はさる娘と十日あまりも恋愛旅行をしたことがあるが娘は身をまかせなかった、女房も今度の場合のような家出はそんなようなもので、一応は必ず肉体的なことはイヤだと言うにきまっているのだから、相手がまだ学生で坊ちゃんの浮田のことだからそれを押してどうすることになる筈がなく、極めて感傷的な旅行にくたびれているぐらいのところだろう。
むしろ機会を失し、帰るに帰られず煩悶しているのかも知れず、それやこれやで御両名遂に心中というようなことになってもなお肉体の関係はないかも知れぬ。
世上の俗事は、案外そんなもので、一向人目につかず亭主に知られぬような浮気に限って深間へ行っているもの、こういう派手な奴は見かけ倒しで、両名却ってただ苦しんでいるぐらいのところだ、などと慰めた。