按吉に慰められているうちは庄吉も力強いような気持で、すっかり相手にまかせきり安心しきってウンウンきいていたが、按吉がさっさと帰ってしまう、待ちかねたものを待つうちはまだよかったが、すでに来り、すでに去った、按吉の居るうちこそはそこに何がしの説得力もあったにしても、按吉去る、その残された慰めの言葉は何物ぞ、ただ空虚なる冗言のみ、女房はおらぬ、男と共に失踪している、この事実を如何にすべき。
庄吉の消耗衰弱は更に又、急速度に悪化した。
庄吉の小学校時代からの後輩で文学青年の戸波五郎が、ちょうど彼の家と露路をへだてて真向いに住み、縁先からオーイとよぶと向うの家から彼の返事をきくことができる。