私は女のハリアイのない微笑の上から、いつも荒君の歯ぎしりを思いだし、敵が上陸して戦争が始ってから、荒君がどんなことをやるか、おかしくて仕方がなかった。
幸い上陸が行われず思いがけない結末がきて、荒君は予定通りの計画に乗りだしたけれども、この結末の方が偶然で、本当の現実は「石に噛りついても」生きられる性質のものであったかどうか疑問だと思っている。
そして現実をむしろ夢想をもって眺めて、どんな卑劣なことをしても生きぬいてみせると悪魔の如く吠えることを好んだ荒君は、私にはハリアイのない女の笑い顔よりも却って現実の凄味や厳しさが感じられなかった。