彼は人の小説を厭になるほどたくさん読むが、僕が三行読んで投げ出すものを彼は三千万語の終りまで無理に読み、無理に幽霊をでっちあげ、そして自分の本当の心と真に争う、自分の幽霊と命を賭しても争うという大事なたった一つのことが忘れられているのだ。
日本的家庭感情の奇怪な歪みは浮世に於ては人情義理という怪物となり、離俗の世界に於てはサビだの幽玄だのモノノアワレなどという神秘の扉の奥に隠れて曰く言い難きものとなる。
ポンと両手を打ち鳴らして、右が鳴ったか左が鳴ったかなどと云って、人生の大真理がそんな所に転がっていると思い、大将軍大政治家大富豪ともならん者はそういう悟りをひらかなければならないなどと、こういうフザけたことが日本文化の第一線に堂々通用しているのである。