保守家で温和で律儀な男が、はからずも自然に天下を望む最前面へ押しだされてしまったので、保守家で事なかれの小心者でも往々にして野心を起して投機などにひっかかるのは世の中に良くある例だが、こういうてあいが慾にからみ我を失うとあくどいことをする。
家康は持って生れた用心深さでウィリアム・アダムスから外国事情をきき、自身幾何学の初歩の講義をうけたりして外国というものを知ろうとしたが、又、間者を外地へ派して外国の風俗文化宗教などを探らせ、このやり方は言うまでもなく内地の諸侯に対しては一層綿密であったのは言うまでもない。
けれども豊臣を亡すという最大眼目のこととなると、駄目なので、どうせ奪いとる天下なら有無を言わさず取ってしまえばよいものを、何がなそれらしい名目なしに事を起すということがやりにくい。