死を待つわけもないのだが、私にしても今はもう弟の死を近いことに思つてゐたので、滞在を一日々々と伸ばすことは、今日死ぬか今日死ぬかといふことのやうな気がするのでもあつた。
『此の節は東京はどちらにおいでで』といふ、車夫の、暗がりの水溜りを避け/\云ふ声に、フト私は我に帰つた。
『目黒の方だ』と、随分力を入れて答へたのではあつたが、その声はかすれてゐた。
死を待つわけもないのだが、私にしても今はもう弟の死を近いことに思つてゐたので、滞在を一日々々と伸ばすことは、今日死ぬか今日死ぬかといふことのやうな気がするのでもあつた。
『此の節は東京はどちらにおいでで』といふ、車夫の、暗がりの水溜りを避け/\云ふ声に、フト私は我に帰つた。
『目黒の方だ』と、随分力を入れて答へたのではあつたが、その声はかすれてゐた。