偶に帰つて来てゐる、自分の友人(父は生前その医者の友達であつた)の長男は、どんな男だらうかといふ、私に対するイヤな好奇心もあつたのだが、若い患者に、あなたの病気は癒らないのだといふことを何か悟つたことでもあるやうに思つたりする此の田舎医者は、恰度その時患者もゐなく、夕飯前の時刻を、ボンヤリしてゐたのであつてみれば、上つて話せといふその言葉も、可なり自然なものであつた。
私にしてからが数日来の色々のお勤めが、やつと茲で終りを告げるのであつてみれば、此の町に、今は自分の友人とてもない身の、フラフラツと、久しぶりにゆつくり話さうといふ気にもなつたし又、先に此の医者が死んだ弟にあなたは死ぬんだなぞといつた時、ビツクリさせられた印象が、何か此の田舎医者の中に追求してみたいといふ気持を、漠然と抱かせてゐたので、瞬時躊躇はしたものの、よし、では上つてやらうといふ気を起したのであつた。
『では』と云つて、私が背ろの硝子戸を締めると、医者の奥さんは、ニッコリとした。