すると医者はまた、例の悟りを参照しようとするから、『いいえ、それは間違つてゐます。
諦めが大事であるとはいへ、諦めがつかないことが直ちに愚かであるとは申せません。
此の世に乞食はゐるものだといふことが真でも、では若干は乞食もゐるやうにすべき理由はないのと同じことでございます』と、死んだ弟を思へば、弟が身を以て感ぜしめられた事を種に、私はまたなんたる狂態だらうと、かにかくに自責の情が湧くのでもあつたが、独りゐては、あれやこれやと迷ひ夢みる私であれど、人に対しては男性的といふか論理的といふか、思ひ切りよく理性的であるのであつた。