従つて芸術の話の登場する凡ゆる場合、其処には二つの神があつて、その一つは芸術の神であり、他の一つは料理屋女将の神ともいふべき神である。
――といふことではあるまいか。
私は今、此の全集の刊行に際して、つまりもう今は宮沢も知られたのであるから、その余りに遅かつたことなぞ構ふことなく、もつと宮沢の作品そのもののことを云ふべきであつたとは思つてゐるが、十年来の愛読書が、今急に世の光を浴びては、偶々入浴して脳貧血を起すがやうなもので、かくは愚痴つぽいとも見える文章を草することが、差当り気の休まる事なのである。