小生の親父が、息子はみんな帝国大学に入れて洋行させようと思つてゐる理想派であることを申上げれば、そして現在三十にもなつた小生が、これからでも高校に這入ると云へば勇み立つでもあらうその親父が、どんな運命の手配りによつてか、とまれかくまれブラ公をブラの儘で野放しにしてゐるといふことは、実に前世の約束とでも申しませうか。
といつて何も茲でこんな私事を開陳に及びたいのではありませぬが、一寸掻い摘んで云つておかなければ、引越しの手伝ひをさせられるといふだけのことでプリプリしてゐると思はれる心配がある上に、今やつとお午近くになつて、漸く御到着の叔母と、これから荷物の片附けをするについて小生のとる態度が、甚だ横著に見えはしないかと心配があるからであります。
「君ちやん(僕の名、実は君介、どうもブラ公みたいな名ですよ)どうも遅くなつて御免よ、富田の奥さんがいろんな話をしなさるから、あとからあとから話しなさるから。