おととい、同室の西脇つくし殿が、いよいよ一家内の都合でこの道場を出る事になって、ちょうどその日がマア坊の公休日とかに当っているのだそうで、それで、つくしをE市まで送って行く約束をしたとか、その前の日あたりからマア坊は塾生たちに大いにからかわれて、お土産をたのむ、とほうぼうから強迫されて、よし心得た、と気軽に合点々々していたが、おとといの朝早く、久留米絣のモンペイをはいて、つくし殿のあとを追っていそいそ出かけ、そうして午後の三時頃、僕たちが屈伸鍛錬をはじめていたら、こいしい人と別れて来たひとらしくもなく、にこにこ笑いながら帰って来て、部屋々々を廻って約束のお土産を塾生たちにくばって歩いていた。
いまのような手不足の時代には、かなりの暮しをしている家の娘でも、やはり家を出て働かなければならぬ様子だが、マア坊なども、どうやらその組らしく、仕事も遊び半分のようだし、そのくせポケットの温かなせいか、いつもなかなか気前がよく、それがまた塾生たちの人気の原因の一つになっているようで、こんな時のお土産だって、かなり贅沢だ。
お土産は、どこでどんな具合いに入手したのか、一寸に二寸くらいのおもちゃの鏡だ。