私にも、あんなに慕って泣いて呼びかけて呉れる弟か妹があったならば、こんな侘しい身の上にならなくてよかったのかも知れない、と思われて、ねぎの匂いの沁みる眼に、熱い涙が湧いて出て、手の甲で涙を拭いたら、いっそうねぎの匂いに刺され、あとからあとから涙が出て来て、どうしていいかわからなくなってしまいました。
あの、わがまま娘が、とうとう男狂いをはじめた、と髪結さんのところから噂が立ちはじめたのは、ことしの葉桜のころで、なでしこの花や、あやめの花が縁日の夜店に出はじめて、けれども、あのころは、ほんとうに楽しゅうございました。
水野さんは、日が暮れると、私を迎えに来て呉れて、私は、日の暮れぬさきから、もう、ちゃんと着物を着かえて、お化粧もすませ、何度も何度も、家の門口を出たりはいったりいたします。