相手は無言なれば、老生も無言のままに引下り、件の入歯を路傍より拾い上げんとせしに、あわれ、天の悪戯にや、いましめにや。
落花間断なく乱れ散り、いつしか路傍に白雪の如く吹き溜り候て、老生の入歯をも被い隠したりと見え、いずこもただ白皚々の有様に候えば老生いささか狼狽仕り、たしかにここと思うあたりを手さぐりにて這うが如くに捜し廻り申候。
なんですか、とわが呆然たる敵手は、この時、夢より醒めたる面持にて老生に問い、老生は這い廻りながら、いや、入歯ですがね、たしかに、この辺に、などと呟いて、その気まりの悪さ。