落花間断なく乱れ散り、いつしか路傍に白雪の如く吹き溜り候て、老生の入歯をも被い隠したりと見え、いずこもただ白皚々の有様に候えば老生いささか狼狽仕り、たしかにここと思うあたりを手さぐりにて這うが如くに捜し廻り申候。
なんですか、とわが呆然たる敵手は、この時、夢より醒めたる面持にて老生に問い、老生は這い廻りながら、いや、入歯ですがね、たしかに、この辺に、などと呟いて、その気まりの悪さ。
古今東西を通じて、かかるみじめなる経験に逢いし武芸者は、おそらくは一人もあるまじと思えば、なおのこと悲しく相成候て、なにしろあれは三百円、などと低俗の老いの愚痴もつい出て、落花繽紛たる暗闇の底をひとり這い廻る光景に接しては、わが敵手もさすがに惻隠の心を起し給いし様子に御座候。