然りと雖も相互に於ける身分の貴賤、貧富の隔壁を超越仕り真に朋友としての交誼を親密ならしめ、しかも起居の礼を失わず談話の節を紊さず、質素を旨とし驕奢を排し、飲食もまた度に適して主客共に清雅の和楽を尽すものは、じつに茶道に如くはなかるべしと被存候。
往昔、兵馬倥武門勇を競い、風流まったく廃せられし時と雖も、ひとり茶道のみは残りて存し、よく英雄の心をやわらげ、昨日は仇讐相視るの間も茶道の徳に依りて今日は兄弟相親むの交りを致せしもの少しとせずとやら聞及申候。
まことに茶道は最も遜譲の徳を貴び、かつは豪奢の風を制するを以て、いやしくもこの道を解すれば、おのれを慎んで人に驕らず永く朋友の交誼を保たしめ、また酒色に耽りて一身を誤り一家を破るの憂いも無く、このゆえに月卿雲客または武将の志高き者は挙ってこの道を学びし形跡は、ものの本に於いていちじるしく明白に御座候。