Wという名前を覚えていないし、それこそ、なんの恩怨もないのだし、私は高等学校時代の友人の顔でさえ忘れていることが、ままあるくらいの健忘症なのに、W君の、その窓から、ひょいと出した丸い顔だけは、まっくらい舞台に一箇所スポットライトを当てたようにあざやかに眼に見えているのである。
W君も、内気なお人らしいから、私同様、外へ出て遊ぶことは、あまり無かったのではあるまいか。
そのとき、たったいちどだけ、私はW君を見掛けて、それが二十年後のいまになっても、まるで、ちゃんと天然色写真にとって置いたみたいに、映像がぼやけずに胸に残って在るのである。