いまはもう、地主も小作人もあったものではありませんが、もともとこの嫁は、私の家の代々の小作人の娘で、小さい頃からちょっとこう思案深そうな顔つきをしていました。
百姓には珍らしく、からだつきがほっそりして、色が白く、おとなになったら顔がちょっとしゃくれて来て、悪く言えば般若面に似たところもありましたが、しかし、なかなかの美人という町の評判で、口数も少く、よく働き、それに何よりも、私に全然れいのこだわりを感じさせぬところが気にいって、私は親戚の圭吾にもらってやったのでした。
どんなに親しい間柄とは言っても、私とその嫁とは他人なのだし、私だって、まだよぼよぼの老人というわけではなし、まして相手は若い美人で、しかも亭主が出征中に、夜おそくのこのこ訪ねて行って、そうして二人きりで炉傍で話をするというのは、普通ならば、あまりおだやかな事でも無いのでしょうが、しかし私は、あの嫁に対してだけは、ちっともうしろめたいものを感ぜず、そうしてそれは、その女の人格が高潔なせいであるとばかり解していたのですから、なに、一向に平気で、悠々と話込みました。