瑜伽論にも『出世ノ名声ハ譬ヘバ血ヲ以テ血ヲ洗フガ如シ』とございまするやうに、この名誉心といふものは、金を欲しがる心よりも、さらに醜く奇怪にして、まことにやり切れぬものでござりました。
ただいまの御賢明のお尋ねに依り、蓮胤日頃の感懐をまつすぐに申し述べまするが、蓮胤、世捨人とは言ひながらも、この名誉の慾を未だ全く捨て去る事が出来ずに居りまする。
姿は聖人に似たりといへども心は不平に濁りて騒ぎ、すみかを山中に営むといへども人を恋はざる一夜も無く、これ貧賤の報のみづから悩ますところか、はたまた妄心のいたりて狂せるかと、われとわが心に問ひかけてみましても更に答へはござりませぬ。