ここに桑盛次郎右衛門とて、隣町の裕福な質屋の若旦那、醜男ではないけれども、鼻が大きく目尻の垂れ下った何のへんてつも無い律儀そうな鬚男、歯の綺麗なのが取柄で笑顔にちょっと愛嬌のあるところがよかったのか、或る日の雨宿りが縁になって、人は見かけに依らぬもの、縁は異なもの、馬鹿らしいもの、お蘭に慕われるという飛んでもない大果報を得たというのがこの物語の発端である。
両方の親は知らず、次郎右衛門ひそかに、出入のさかなやの伝六に頼み、徳右衛門方に縁組の内相談を持ちかけさせた。
伝六はかねがねこの質屋に一かたならず面倒をかけている事とて、次郎右衛門の言いにくそうな頼みを聞いて、向うは酒屋、うまく橋渡しが出来たら思うぞんぶん飲めるであろう、かつはこちらの質の利息払いの期限をのばしてもらうのはこの時と勇み立ち、あつかましくも質流れの紋服で身を飾り、知らぬ人が見たらどなたさまかと思うほどの分別ありげの様子をして徳右衛門方に乗り込み、えへへと笑い扇子を鳴らして庭の石を褒め、相手は薄気味悪く、何か御用でも、と言い、伝六あわてず、いや何、と言い、やがてそれとなく次郎右衛門の希望を匂わせ、こちらさまは酒屋、向うさまは質屋、まんざら縁の無い御商売ではございませぬ、酒屋へ走る前には必ず質屋へ立寄り、質屋を出てからは必ず酒屋へ立寄るもので、謂わば坊主とお医者の如くこの二つが親戚だったら、鬼に金棒で、町内の者が皆殺されてしまいます、などとけしからぬ事まで口走り、一世一代の無い智慧を絞って懸命に取りなせば、徳右衛門も少し心が動き、