「かたじけなく存じます。
さきほどの百右衛門のかずかずの悪口、聞き捨てになりがたく、金内軽輩ながら、おのれ、まっぷたつと思いながらも、殿の御前なり、忍ぶべからざるを忍んで、ただ、くやし涙にむせていましたが、もはや覚悟のほどが極りました。
ただいまこれより追い駈けて、かの百右衛門を一刀のもとに切り捨てるのは最も易い事ですが、それでは家中の人たちは、金内は百右衛門のために嘘を見破られて、くやしさの余り刃傷に及んだと言い、それがしの人魚の話もいよいようろんの事になって、御貴殿にも御迷惑をおかけする結果に相成りますから、どうせもう、すたりものになったこの身、死におくれついでに今すこし命ながらえ、鮭川の入海を詮議して、弓矢八幡お見捨てなく、かの人魚の死骸を見つけた時は、金内の武運もいまだ尽きざる証拠、是を持参して一家中に見せ、しかるのち、百右衛門を心置きなく存分に打ち据え、この身もうれしく切腹の覚悟。