かなわぬ恋の仕返しに金内殿をいじめるとは、憎さが余って笑止千万!
と早くも朗らかに凱歌を挙げた。
その夜、武蔵を先登に女ふたり長刀を持ち、百右衛門の屋敷に駈け込み、奥の座敷でお妾を相手に酒を飲んでいる百右衛門の痩せた右腕を武蔵まず切り落し、百右衛門すこしもひるまず左手で抜き合わすを鞠は踏み込んで両足を払えば百右衛門立膝になってもさらに弱るところなく、八重をめがけて烈しく切りつけ、武蔵ひやりとして左の肩に切り込めば、百右衛門たまらず仰向けに倒れたが、一向に死なず、蛇の如く身をくねらせて手裏剣を鋭く八重に投げつけ、八重はひょいと身をかがめて危く避けたが、そのあまりの執念深さに、思わず武蔵と顔を見合せたほどであった。