めでたく首級を挙げて、八重、鞠の両人は父の眠っている鮭川の磯に急ぎ、武蔵はおのれの屋敷に引き上げて、このたびの刃傷の始中終を事こまかに書き認め、殿の御許しも無く百右衛門を誅した大罪を詫び、この責すべてわれに在りと書き結び、あしたすぐ殿へこの書状を差上げよと家来に言いつけ、何のためらうところも無く見事に割腹して相果てたとはなかなか小気味よき武士である。
女二人は、金内の屍に百右衛門の首級を手向け、ねんごろに父の葬いをすませて、私宅へ帰り、門を閉じて殿の御裁きを待ち受け、女ながらも白無垢の衣服に着かえて切腹の覚悟、城中に於いては重役打寄り評議の結果、百右衛門こそ世にめずらしき悪人、武蔵すでに自決の上は、この私闘おかまいなしと定め、殿もそのまま許認し、女ふたりは、天晴れ父の仇、主の仇を打ったけなげの者と、かえって殿のおほめにあずかり、八重には、重役の伊村作右衛門末子作之助の入縁仰せつけられて中堂の名跡をつがせ、召使いの鞠事は、歩行目付の戸井市左衛門とて美男の若侍に嫁がせ、それより百日ほど過ぎて、北浦春日明神の磯より深夜城中に注進あり、不思議の骨格が汀に打ち寄せられています、肉は腐って洗い去られ骨組だけでございますが、上半身はほとんど人間に近く、下半身は魚に違わず、いかにも無気味のものゆえ、取り敢えず御急報申しあげますとの事、さっそく奉行をつかわし検分させたところが、その奇態の骨の肩先にまぎれもなく、中堂金内の誉れの矢の根、八重の家にはその名の如く春が重ったという、此段、信ずる力の勝利を説く。
(武道伝来記、巻二の四、命とらるる人魚の海)