宿に着けば相変らず夜ふかしと朝寝である。
この丹三郎ひとりのために、国元を発足した時の旅の予定より十日ちかくもおくれて、卯月のすえ、ようようきょうの旅泊りは駿河の国、島田の宿と、いそぎ掛川を立ち、小夜の中山にさしかかった頃から豪雨となって途中の菊川も氾濫し濁流は橋をゆるがし道を越え、しかも風さえ加って松籟ものすごく、一行の者の袖合羽の裾吹きかえされて千切れんばかり、這うようにして金谷の宿にたどりつき、ここにて人数をあらため一行無事なるを喜び、さて、これから名高い難所の大井川を越えて島田の宿に渡らなければならぬのだが、式部は大井川の岸に立って川の気色を見渡し、
「水かさ刻一刻とつのる様子なれば、きょうはこの金谷の宿に一泊。