と駒に打ち乗り、濁流めがけて飛び込もうとするので式部もここは必死、篠つく雨の中を蓑も笠もほうり投げて若殿の駒の轡に取り縋り、
「おやめなさい、おやめなさい。
式部かねて承るに大井川の川底の形状変転常なく、その瀬その淵の深浅は、川越しの人夫さえ踏違えることしばしば有りとの事、いわんや他国のわれら、抜山の勇ありといえども、血気だけでは、この川渡ることむずかしく、式部はきょう一日、その水癲癇とやら奇病にでも何にでも相成りますから、どうか式部の奇病をあわれに思召して、川を越える事はあすになさって下さい。