かりそめにも一夜の恩人たちを訴えるわけにもいかず、いや疑う事さえ不埒な事だ、さりとてこのまま生き延びる工夫もつかず、女房、何も言わずに、わしと一緒に死のうじゃないか。
この世ではそなたにも苦労をかけたが、夫婦は二世と言うぞ。
一寸さきは闇の世の中、よろこびの宴の直後に、徳兵衛夫婦は死ぬる相談、二人の子供も、道づれと覚悟を極め、女房は貧のうちにも長持の底に残してあった白小袖に身を飾り、鏡に向い若い時から人にほめられた黒髪を撫でつけながら、まことに十九年のなじみ此のあけぼのの夢と歎き、気を取り直して二人の子供をしずかに引起せば、上の女の子は、かかさま、もうお正月か、と寝呆け、下の男の子は、坊の独楽はきょう買ってくれるかと言う。