家を出ると、急にむずかしき顔して衣紋をつくろい、そり身になってそろりそろりと歩いて、物持の大旦那がしもじもの景気、世のうつりかわりなど見て廻っているみたいな余裕ありげな様子である。
けれども内心は、天神様や観音様、南無八幡大菩薩、不動明王摩利支天、べんてん大黒、仁王まで滅茶苦茶にありとあらゆる神仏のお名を称えて、あわれきょう一日の大難のがれさせ給え、たすけ給えと念じて眼のさき真暗、全身鳥肌立って背筋から油汗がわいて出て、世界に身を置くべき場所も無く、かかる地獄の思いの借財者の行きつくところは一つ。
花街である。